2023/09/16

American Space Museum & Walk of Fame

Crew7の打上げが延期になったのでヒマになった。前に書いたようにロケットの打上げの日程はありとあらゆる事情により延期になることがあるので、1日の延期というのは織り込み済みだ。今回は2回の延期まで耐えられるように旅程を組んでおいた。打上げ予定時刻が深夜なので、厳密には3回の延期までは対応可能だったことがあとでわかった。

予定日当日になって延期になる理由はさまざまだが多いのは天候不順。シャトルの場合は上昇の途中のあるタイミングでエンジントラブルがあった場合にTAL(Transoceanic Abort Landing)という大西洋をまたいで緊急着陸を行うケースが想定されていた。

シャトル30年の歴史で135回の打上げにおいてTALが発動したケースは実際には一度もないのだが、安全手順の一部なので無視するわけにはいかない。フロリダの天候が快晴なのにモロッコが砂嵐なのでScrub、なんていうケースは過去に何度もあった。

SpaceXがFalcon9の1段目を回収するようになった最初の頃は大西洋上に回収船を出していたので、回収予定地点の天候が悪ければやはりScrubになるケースがあった。ロケットの打上げ能力に余力がでてきて1段目をKSCまで戻すだけの燃料を確保できるようになってからはフロリダの天候だけで条件をクリアできるようになり、打上げの頻度もあがってきた。といってもそれまでは無人の衛星打上げにおけるKSC回収だったので、有人のCrew Dragonの打上げで1段目がKSCまで戻ってくるのはじつは今回が初めてとなる。

その他の当日延期理由としては、事前に設定された侵入禁止区域(NOTAM)にふらふらと迷い込んだセスナやヨットが制限時間内に退避しなかったケースなどもあると聞く。Nice Boat !

秒速8kmで地球を周回しているISSにドッキングするために打上げ可能なタイミングは毎日10分程度の短い時間に限られる。この時間帯のことを「ローンチ・ウィンドウ」という。運動会のクラス対抗リレーで走者が一周してきた時に次の走者がうまく助走してタイミングを合わせてからバトンタッチするようなイメージ。ウィンドウを外して打ち上げると、軌道変更のための燃料が足りなくなってドッキングは失敗する。ニュートンの運動方程式「 F = ma 」ね。

ISSの場合、ローンチ・ウィンドウは約24時間ごとに巡ってくる。厳密には毎日20分くらいづつ繰り上がっていく。26日に再設定されたCrew7の打上げ時刻は午前3時27分。今回の延期理由が機器のトラブルではなくペーパーワークなのであれば、明日はきっと大丈夫だろう。天気もよさそうだし。 

打上げ延期でヒマになったので、何年か前に尻Pが紹介していた博物館を見に行こうと思いたった。名前を覚えていなかったので尻Pの日記を探したけれどうまく辿りつけなかったので、だいたいの場所をGoogleマップで表示してMuseumで検索したらビンゴ! やっぱりじぶんは名前よりも空間座標で物語を記憶するクセがあるな… [あとで調べてみたら、日記ではなくてツイートだったようだ。これとかこれとか。Twilogよ永遠なれ]

Best Westernをチェックアウトして荷物を車のトランクルームに入れて出発。10分ほどでTitusvilleの町中にあるAmerican Space Museumに着いた。

Wikipediaを見るとこの博物館からすこし北のインディアン川沿いにあるUS Space Walk of Fameというモニュメントを設立したのと同じ財団が運営しているらしい。市が1988年にインディアン川沿いの地域の再開発を計画した際に、Doyle E. Chastainというお医者さんが送った1通の手紙による提案がきっかけとなって財団が設立、市が1994年に区画整理したSpace View Parkの一角を財団に提供、まずマーキュリー計画のモニュメントが1995年に完成。続いて1997年にジェミニ計画、2009年にアポロ計画、2014年にスペースシャトルのモニュメントがそれぞれ完成。

いっぽうで博物館の完成は2001年。つまりモニュメント建設が先で博物館があと。ずいぶん年期の入った展示物がこれでもかとところ狭しと陳列されていたのでてっきり80年代あたりから運営されているのかと思ったけれど意外に新しかった。

Tripadvisorの評価を見ると「Unexpected Gem」「EVERY single staff member we interacted with were top-notch」など絶賛する言葉が並ぶ。Best Attractionsというサイトでは展示の内容やモニュメントの詳細を見ることができる。

入り口の横には運営に協力したChuck Jeffrey氏とJoseph A. William氏にささげるプレートが掲げられていた。

博物館内部の展示はマーキュリー、ジェミニ、アポロ、シャトル、女性宇宙飛行士、宇宙開発を支えるエンジニアたち、などのコーナーに分かれていて、それぞれ「なぜこんなものがこんなところに?!」とびっくりするようなメモラビリアばっかりだった。小さな博物館だけどじっくり見ようと思うとゆうに3時間はかかる。

 たとえばマーキュリー計画当時の管制室の復元。本物のコンソールが並んでいて、ボランティアがメンテナンスしているので、当時と同じように打上げ時に点滅する状態が動態保存されている。


ボランティアの人にマンツーマンでガイドしてもらいながらいろんな展示をくいるように眺める。ジェミニ8号のスラスター制御装置の前でふと足が止まった。

ジェミニ8号は1966年3月16日に打上げられ、アジェナ標的衛星とドッキングした。スプートニクやガガーリンの地球周回飛行以来、旧ソ連の後塵を拝してきたアメリカがついに旧ソ連を追い抜く技術を習得するという重要なミッションだった。乗員はニール・アームストロングとデイビッド・スコット。ところがドッキング後の姿勢制御中に異常回転が発生し、ドッキングを解除したあとにさらに回転が加速するという緊急事態となった。アームストロング船長は大気圏再突入システムを点火して船体の回転を止めることに成功、南大東島と小笠原諸島の中間付近の太平洋上に緊急着水した。

Image Credit: NASA

このジェミニ8号の緊急着水が当時幼稚園児だったじぶんが記憶している初めての宇宙飛行士に関わるニュースだ。アームストロング船長という名前はその時に漠然と記憶に残った。映画「ファースト・マン」でもこの時の緊急事態は描かれている。X線天文衛星「ひとみ」が空中分解したときも、このジェミニ8号の異常を思い出した。

この博物館ではその時ジェミニ8号が誤動作する原因となった制御装置が展示されていた。こんなところでお目にかかるとは。その話をボランティアの人に話すと同世代であることがわかって仲良くなった。彼のほうが2ヶ月だけお兄さん。

自分がJAXAの宇宙飛行士選抜ファイナリストでSatoshiの打上げを見にきたんだといったら盛り上がって受付のおばさんにその話を伝え、おばさんも盛り上がって奥の部屋にいたMarqという人を連れてきた。Marqはここの博物館でStay Curiousというビデオポッドキャストをいつも編集しているのだそうだ。対談用のクロマキーと照明を常設した使いやすそうなスタジオだ。ちょっと話しただけでもめっちゃ宇宙オタクだとわかる。

Marqはとっておきだぞという感じで引き出しの中から1972年当時のスペースシャトルの青焼きを見せてくれた。ほえー。シャトルの最終形が固まって大統領が承認した頃の設計図か。

別のボランティアは子供たち向けの科学教室を担当していた。ここで学んだ子供たちがSTEMの道を歩んでいくのだろう。

いろいろな展示をたっぷり3時間ほど堪能してからSpace View ParkにあるSpace Walk of Fameに移動した。ここにはいろんな宇宙飛行士の手形や慰霊碑がある。




お腹が空いたので隣にあるBurger Kingで遅い昼食を食べて、今夜の宿のCourtyard by Marriottにチェックインした。

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2023/09/14

Scrubbed!

写真の整理を終えて仮眠するつもりが起きたら20時を回っていた。打上げ見学の集合時刻まで5時間ほど。カード会社に電話をしたけれど時間外。少しうだうだしてから徒歩3分のマクドナルドに夕食を食べにでかけたらちょうど閉店したところだった。しょうがないので近くにあるWaffle Houseに向かって歩く。夜空を見上げると穏やかな快晴。よい打上げ日和になりそうだ。

Waffle Houseは警官が制服のままパトカーで乗り付けてカウンターでコーヒーでも飲んでいそうな、ハリウッド映画でよくみかけるタイプの典型的な田舎のチェーンストア。年季の入った老夫婦とちょっと愛想の悪い娘さんだかアルバイトだかみたいな女性店員がいる。

カウンターで$6.25のTexas Cheesesteak Meltとコーヒーを注文してiPhoneをいじりながら食べていると、NASAからメールが着信。え! Scrubかよ!!

打上げは明日に延期。理由は書かれていないが24時間後ということはISSとのランデブーの次のウィンドウになるのでそれほど深刻な問題ではないのだろう。とはいえ5時間前の中止か。ちょっと気になる。

すかさず現地にいる知人たちのLINEグループに情報を伝えた。このメールで初めてScrubという言葉を知った人もいたようだ。そりゃそうだよな。じぶんだって野口さんの打上げの時の経験がなかったら知らない単語だ。語感としては、紙に書いた打上げ予定日時を消しゴムでごしごしと消す、みたいなイメージかな。

忘れもしない18年前の7月13日、野口さんが乗るSTS-114の打上げ見学に招待されてわくわくしながらKSCVCに集合し、見学場所に向かうバスに乗り込もうと歩きだしたまさにその瞬間、前から人々が口々に「Scrub!」「Scrubbed!」と叫びながらゾロゾロと戻ってくる。それが打上げ中止の意味だと知ってからは放心状態でKSCVCを離れ、帰国日までふらふらと周辺をあてどなく観光したという苦い記憶がある。

STS-114のScrubはシャトルの燃料タンクの底部についている燃料枯渇センサーの動作不良が原因だった。この時はシャトルをいったんVABに戻し、対策した上で13日後の7月26日に打上げられている。

Crew7の5時間前のScrubの理由について公開されている情報はNASAのブログのこの部分。
Mission managers met on Thursday to discuss the status toward final readiness for a Friday launch opportunity. After performing an extra data review, teams decided to take additional time to reconfirm required factors of safety and operational margin on one of the Dragon spacecraft’s environmental control and life support system (ECLSS) components.
Crew Dragonの環境制御・生命維持システム(ECLSS)の運用上の安全基準について再確認が必要となった、ということらしい。

Twitter(𝕏)では @RussianSpaceWeb さんがプログレス補給船のISSへのドッキングのNASA TVの中継をみていて「ナレーションで "to complete some paperwork..." と喋っていたよ」とツイートしていた。ペーパーワークってどゆこと??

During TV coverage of the Progress MS-24 docking, NASA commentator said that the Crew 7 launch was postponed to give specialists time to complete some paperwork...

この時のNASA TVをだれか保存してないかなと探したら、この人がYouTubeに載せている。文字起こしを検索するとたしかに11'50"のあたりで paperwork と言っている。便利な時代だなぁ。

Once again, let's note for our viewers and listeners that the launch of the Crew 7 crew on a Falcon 9 SpaceX rocket from Launch Pad 39A at the Kennedy Space Center that had been scheduled for the wee hours of Friday morning, has been postponed for 24 hours to allow Mission Managers to close out some open paperwork on preparation for the vehicle to be launched and arrive at the International Space Station.
"wee hours"という表現、知らなかった。文字起こしのミスかと思ったら午前0時から日の出までの時間帯を指す言葉らしい。

KSCに出かける必要がなくなったので隣のコンビニに立ち寄って缶ビールとトルティーヤを買って帰った。え、免許証を見せろと言われなかったぞ? 東洋人は年齢不詳に見えるのでいつもなら酒を買うと年齢確認のために免許証を見せろと言われるのだけれど…?

知人たちはさぁこれから出かけるぞ、という気勢を削がれてCocoa Beachのホテルの一室に集まって酒盛りに突入していた。LINEでこの写真を送ったらビデオ通話がかかってきたので無事の打上げを祈ってみんなと乾杯するなどした。

ECLSSのpaperworkっていったいなんだろう? 安全基準に対する解釈がNASAとSpaceX とで食い違っていたのか? Crew Dragonはこれまでにも4回の有人ミッションをこなしているのになぜ今回は打上げの5時間前になってからscrubしたんだ? そんなことをわぁわぁ言いあいながらフロリダの夜は更けていく…

そういえば今回は日本のメディアからの事前コンタクトがなかったので「いまのお気持ち取材」もなかったな。誰も現地に来てないの??

2023/09/13

Exifの深くて暗い川

 (松浦さんの新しい記事が面白かったので、タイトルオマージュしてみた。いや、深い意味はない)

人生初の射撃を終えたあと、深夜の打ち上げに備えて早めに眠ろうと知人たちと別れてBest Westernに戻った。

今回の渡航では荷物を軽くしたくてMacBook Proは家に置いてiPhoneとiPad miniだけを持ってきている。ラップトップなしで海外に来るのはじつに30年ぶりくらいか。そのかわりミニ三脚を2つとSONYとCanonのコンデジを持ち込んだ。夜間の打ち上げなのでどうせあまり綺麗な写真を撮れないというかじっくり撮ろうとすると打上げそっちのけでカメラと格闘するはめになるので、コンデジ2台を三脚に固定して動画を撮りっぱなしにして肉眼で打上げをじっくりと堪能しようという戦略。

来る途中の飛行機で撮った写真やWave AcrossやKSCVCで撮った写真がすでに大量にあるので、はやめに整理しておこうと思ってファイルをiCloudに移動し始めた。(この時うっかりiPhoneをモバイルルーターに接続したままだった)

いつもならMac経由でポータブルHDDに転送し、日付とキーワードをつけたフォルダに階層保存する。バックアップとしてAmazon Photoにもアップロードする。ポータブルHDDはTime Machine経由で別の大容量HDDにバックアップさせる。今回はMacがないのでそれぞれの場所で撮った写真をiCloudのフォルダに分けて別々にアップロードした。こうすればあとでMacからiCloudフォルダを開いた時にファイル修正日時が撮影日時のままでアップロードできる。

「なんでiCloudとかGoogle Photoに管理させないの? 楽なのに」と思われるかもしれないけれど、写真を撮りまくるペースにクラウドのストレージ単価がとても追いつかない。10TBくらいのストレージをお気軽に使い倒せるお値段にならなければ、やっぱりポータブルHDDでファイル管理するのが最安最強!ということになる。

ここで問題になるのが「あの時撮ったあの写真を誰かに見せたい時にどうやって引っ張りだしてくるか」ということ。

まずそのイベントの日付を確認してフォルダを見つけ出す。フォルダの中にならんでいるたくさんのファイルの日時をざくっとみて、ほしいファイルをえいやっと拾い出す。この時、ファイルの修正日時が撮影した日時であること、が必要になる。

面倒なことにJPEGやMOVファイルなどには4種類の日付と時刻が記録されている。厳密にはもっと多くて複雑だけどとりあえずここではファイルの修正日時(mtime)とExifの撮影日時が別々に記録されていることだけ覚えておいてほしい。

修正日時はmacOSでフォルダを開いてファイルを右クリックした時に「情報を見る」を選ぶと表示される「変更日」のこと。
Exif日時は写真ファイルをプレビューなどで開いて「インスペクタを表示」して「Exif」タブを選んだ時に表示される「オリジナルの日時」のこと。

普通はこれらの日時をあえて変更する人はいないのだけれど、じつはどちらもコマンドやツールを使って簡単に修正することができる。たまに裁判などで証拠となったファイルの日時の修正の有無が話題になることがあるし。裁判官の中にもこのあたりの事情に詳しい天才的な人がいるのはじつに心強いし痛快だ。

ロシアがウクライナに侵攻するときの口実として「ウクライナ側が先に攻撃を仕掛けてきたから」と主張するための証拠の動画ファイルのExif日付が実際の開戦日ではなくプーチンがもともと開戦準備の秘密指令を出していた(と西側の情報機関が警告していた)2月16日のままだった、というおまぬけな状況もあったね、そういえば。どんなに天才的な独裁者が秘密裏に周到に準備した電撃作戦を開始しようとしても、オリンピック開催期間を避けて閉会式後に開戦日を変更することにする、なんて気まぐれをその場の思いつきでやられた日には、苦労して偽旗作戦のためにExif日時の整合性を完璧に準備しておいたはずの末端の工作員はとんだおまぬけに見えるよね。真珠湾の宣戦布告文書翻訳遅れどころの騒ぎじゃない。

閑話休題

こうやって集めておいた2000枚近くの写真を帰国後にAmazon Photoにアップロードしてスライドショーで眺めようという魂胆。知人たちから送られてきた写真もあわせてアップロードする。ここでExifの時間のずれを修正する必要が出てくる。

ExifというのはExchangeable image file formatの略で、富士フィルムが開発し日本電子工業振興協会(JEIDA)が90年代後半に制定したといわれる画像メタデータのフォーマットのことだ。シャッター速度や絞り、ISO感度、焦点距離などが記録されているので、写真を趣味とする人にとってはとても便利で貴重なデータが保存されている。

Twitterが普及し始めた頃、写真を添付すると撮影地点のGPS座標がモロに記録されていたのでストーカーに悪用される危険やテロリストのアジトをテロリスト本人が暴露してしまうような事例があった気がする。現在はアプリの側でアップロードの際にExifを消すのでこの危険はとりあえず回避されるようになった。

iPhoneやMacの写真アルバム、Amazon PhotoなどではこのExif日時の順に写真が並びスライドショーが再生される。ここで問題になるのが、Exifの撮影日時にはタイムゾーンの概念がなく、それぞれのカメラメーカーが解釈した流儀にそって現地時間が記録される、という点だ。メーカーや機種によって挙動が異なるのがやっかいだ。最初に提案したやつ、ちょっとそこへ座れ。

iPhoneの場合、ファイル修正日時は世界時(UTC)で記録されるので、現地で見るときは現地時間、帰国して見れば日本時間で表示されるが、内部では世界時で記録されている。しかしExif日時はその写真を撮った時のローカル時刻が記録される。現地のローカル時刻に切り替わるタイミングは飛行機が着陸して航空機モードを解除し、現地のローミングキャリアの電波を拾った瞬間。つまりアメリカについて航空機モードをオフにすると、その先に撮った写真はExif日時だけが過去に戻る。

GPSの時刻と同期するSONYコンデジの場合、現地に到着してGPSの電波をひろってしばらくすると内部の時計が突然現地時刻に切り替わる。ただしメニューで夏時間の設定をしておかないと冬時間のままとなる。


 今回の場合、現地で電源を入れて数枚は日本時間で記録されていて、途中からGPSを受信して米東部標準時、つまり14時間過去に遡った。米東部夏時間ではなく。

CanonはGPSがないので日本時間のままで今回の旅行を終えた。

Exifの時間のずれがわかっているばあいには一括で変換できるexiftoolという便利なツールがある。たとえば米東部夏時間で記録されたJPEGを一括で日本時間に変換するには

exiftool -alldates+=13 *.jpg

あるいはAmazon Photoからダウンロードしたファイルの修正日時をExif日時に戻してやるには

exiftool -FileModifyDate<DateTimeOriginal *.jpg

とすればよい。exiftoolのインストールの方法については適宜ぐぐってください。

Exifに記録される日時がこうもバラバラになってしまうのは、富士フィルムが最初に規格を作った時にタイムゾーンの存在もしくは必要性を認めなかったからだ。国内市場を見据えて商品開発するのはいいが、システム内部の時刻といういちばん基本的な部分で世界時を意識しないで設計を始めてしまうと、いざ海外展開の時に身動きがつかなくなる。

昔、シャープが電子手帳ザウルスを発売した時に粋がって海外出張の時などに持ち歩いていたことがある。コンセプト的にもサイズ的にももっとしっかりと未来を見据えて開発していれば海外市場を席巻できたかもしれない製品だった。ところがタイムゾーンを設定できずに時計を現地時刻にあわせてみると、予定表に入れた時刻がずれてあとでえらい目に遭ったのを覚えている。そーゆーとこだぞ日本企業。社員の勤怠管理には秒単位まで熱心になるくせに、なぜ世界がそれぞれのタイムゾーンで動いているという認識なしに基本設計を始めてしまうのだ。ヤード・ポンド法を各国に押し付けてくるあのNASAでさえ、宇宙ステーションの時間は世界時なのに。

Exifは日本企業と世界市場のあいだに横たわる深くて暗い川の象徴かもしれない。日本時間という単一のタイムゾーンにぬくぬくと守られてきて世界時を採用することの重要性に気がつかない。日本はいつになったらDX対応になるんでしょうか河野さん。

てか、ヤード・ポンド法、滅ぶべし。

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げんかつぎ

 無事に知人たちとの夕食会に参加して「明日はなにをしようか」という話題で盛り上がった。Crew7の打上げに際してNASAから事前に知らされていたイベントは下記の3つ。

L-3(3日前) チェックイン
L-2(2日前) Wave Across
L0(当日) 打上げ

「日程に余裕をもって来い」「3日前には着いておくように」というわりには打上げ前日には予定がなにもないのでちょっとヒマになる。前の週にKSC入りした知人の偵察で「近くにいいShooting Rangeがあるよ」と聞いていたので、好奇心の強いメンバーで訪れてみることにした。KSCからインディアン川を渡った対岸にアメリカ警察殿堂博物館(American Police Hall of Fame & Museum)というのがある。

「あれ?こんなの前からあったっけ?」と調べてみると設立は1960年にフロリダ州ノースポートだけれど1990年にマイアミに移転し、さらに2003年にTitusvilleのこの地に引っ越してきたらしい。全米警察署長協会(National Association of Chiefs of Police)が運営しているとのことなので、民間の射撃場よりも信頼性があるかな?? 15年前はその隣にあった「合衆国宇宙飛行士の殿堂」を見にきたけれど、当時はその隣になにがあるかなんて気にしてなかった。

みんなで盛り上がっているときに「プリゴジンが乗ったジェット機が墜落した」という第一報がiPhoneのニュースアプリに飛び込んできた。「あーこりゃ暗殺だね」「でもこのタイミングでやるかねふつー?」などと皆で勝手なことをわいわいと言いあう。渡航前に「プーチンが突然とち狂って妙なことを始めないともかぎらない」と漠然と思っていたのは、まぁある意味で正しかったともいえ…なくも…ない?

午後は時差ぼけで眠くなるので午前中に行くのがいいかなと思ったが平日は正午かららしい。 Best Westernの近くの中華料理屋にいったん集合して昼食を食べてからみんなで向かおう、ということになった。そういえばこの中華料理屋、毎日新聞の元村さんと来たところだな。ボリュームが殺人的に多いアメリカの料理に飽きた時にはこういうところでみんなでシェアして食べるのが救いになる。

昼食の後、知人の一人がショッピングモールの駐車場で充電中だったテスラの運転席に座らせてもらった。テスラを試してみたいというミッション、コンプリート。こんな感じでちょっとした買い物の途中にこまめに充電しておくのがお作法らしい。アプリで充電の様子も見られるし周囲にあやしい人間がいないかもチェックできるしエアコンもリモートでonにできるそうだ。別の知人はアプリを入れたあとモバイルルーターをホテルの部屋に忘れてきてドアをロックする方法がわからなくなって詰んだ、と言っていた。

みんなでテスラの品評会をやったあと、おもむろにShooting Rangeへ。

博物館とShooting Centerの窓口は別なのか、へーそれならShooting Centerへ直行だね、と話しながらドアを開けると、もうパンパンと銃声がしている。薬莢が床中に散乱している。さて受付を済ませて、と思ったら、この日に限ってパスポートを別のカバンにいれてBest Westernに忘れてきたことを思い出した。なんたるチョンボ。

知人たちに「取りに戻る」と告げてレンタカーで引き返した。途中、うっかりSR405の反対車線に入りかけてパッシングされて気がついた。うえー、「日本人観光客、フロリダ州の高速道路を逆走して交通事故死」の見出しになるやつやん。

じぶんは信心深くなどないし、げんかつぎなどにこだわる方ではないのだが、この日はこれでなんか悪いつきものを落とした気がした。制限速度を守りながらBest Westernにまでゆっくりと戻る。水をたっぷり飲んで気持ちを落ち着けた。

午後は時差ぼけで眠くなるのでこの日は朝からなんとなく落ち着かない気がしていた。だがこのちょんぼですっかり目が覚めた。平安時代なら「方違え(かたたがえ)」と「鼻向け(はなむけ)」やね。

気を取り直してShooting Centerにゆっくりと戻り、受付を済ませて知人たちと合流した。Glock 17に9mmを5発ずつ装填して撃つ。インストラクターが「両手でこう支えてゆっくり引き金を引いてみろ」というので感触を確かめる。「さぁ次は撃ってみろ」というので「ちょっと待って、初めてなのでもう一度感触を確かめさせて」といって時間をかけて体の体勢を整えて引き金の感触を探る。次は実弾。呼吸を整えてゆっくりと引き金を引く。

9mmは思ったほど反動はなかったがそれでもなかなかの衝撃だった。インストラクターが興奮して「おい!いまのがどこにあたったか見てみろ!」と的を引き寄せる。

20 feetで2cmくらいか。人生初の1発にしてはなかなか良かったかな。ビギナーズラックってやつね。

そのあと30 feetにしてしばらく撃ってみた。何人かで的を共有するのでじぶんは左の「7」と「8」を狙った。30 feetっていえばかっこいいけれどたった9メートルやん。三段跳びで接近戦に持ち込まれるくらい近い距離やん。なかなか当たらないもんなんやね。リコリコ、疑っててごめん。

***

2011年に最後のスペースシャトルのフライトが終わって、アメリカの有人宇宙プログラムはロシアのソユーズに依存していた。2019年にSpaceXがCrew DragonをKSCから打ち上げた時に、打ち上げ前に行うげんかつぎの一つであるトランプゲームってどんなものだっけ?とみんなが忘れていたらしい。と、とある日本人宇宙飛行士から聞いた。正解は「コマンダーがトランプゲーム(ポーカーかな?)で負けるまでゲームを続ける」のだそうだ。

コマンダーが抱えこんでいるbad luckをトランプゲームで負けることによって消費してしまおう、というのがその由来らしい。にしても、たった10年くらいで忘れてしまうんか。

じぶんも人生初の射撃ということで気がつかないうちに緊張していたらしい。逆走というbad luckでつきものを落としたのかな、などと考えてしまう。事故を起こしては元も子もないので、トランプゲームのような他愛もないものでbad luckとおさらばして、平常心でミッションに臨むことをみなさんにはおすすめする。

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2023/09/12

UberとLyftのトラブル

 Best Westernに戻ると早速、Cocoa Beachでの夕食会に出かけるためLyftで配車の予約をしてみた。アメリカ国内でのUberとLyftの状況を知っておきたかったからだ。 Uberは以前フランスで使ったことがあるが、Lyftは今回初めて。知人から「+81の日本の番号だと拒否されるよ」と脅されていたのでSkypeの月額プランでアメリカの「+1」の電話番号を取得してからLyftに登録してみた。Uberのほうは「+81」のまま。

Lyftに自分の情報を入力して、「近くに車はいるかな?」とみていると、配車時刻の指定もできるようになっている。おおこれは便利だと思ってさっそくピックアップの場所と行き先を地図で指定して時刻を選んで配車予約をした。

地図を見ていると、配車時刻が近づいてくると一台の車が近くに寄ってきて待機しているようだ。

ところが時間になってもいっこうに車が動く気配はない。おかしいなと思って通知欄を見ると配車がキャンセルされている。え、おかしいなと思ってリアルタイムでの配車を手配すると "We need you to confirm some of your information before you can continue" という表示が出て、"Add another way to pay"と言われる。あわてて別のカードも登録してみたが "We couldn't verify your information.  Please make sure it is entered correctly."と出て先へ進めない。うーん、ではUberにするか、と思ってUberで配車手配をかけてもやはり「別のお支払い方法をお試しください」といわれてカードが認証されない。えー。フランスではこのカードで問題なかったのに。仕方がないのでこの日は自分のレンタカーで移動することにした。

翌日というかこちらの深夜、日本の朝に、カード会社に電話をかけてみた。電話が混み合っていますというアナウンスを5分ほど聞かされたあとにやっとつながって、経緯を伝えたら、7千円ほどの不正利用の記録があるという。ああ、たぶんそれですきっと。調査して折り返し連絡するというので待っていると5分ほどで電話がかかってきた。不正利用検知システムを今月いっぱい解除するのでまた試して欲しいとのこと。システムを丸ごと停止するのは若干不安だけどまぁ試すか、と思って電話を切った。このカードはLyftでもUberでも登録してある。

後日、古川さんのCrew Dragonが無事に打ち上がってCocoa Beachでまた夕食会を開こうということになったので、またLyftの配車予約をしてみた。

ピックアップしてくれるドライバーも決まったようだ。よしよし。

ところがしばらくしてやはり "We need you to confirm some of your information before you can continue" の表示が出て配車がキャンセルされた。えー。システム停止したのではないの??

PayPal経由での支払いも追加して試してみたけどやはりだめ。このPayPalに登録してあるカードが同じだからかな。

しかたがないのでUberに切り替えてみた。今度はちゃんと通ったようだ。ということはLyftとこのカード会社との相性が悪いのか? と思いつつ、無事に目的地に辿り着いた。帰りも問題なく別のドライバーにピックアップしてもらってホテルに戻ることができた。

ところがあとでUberの記録をよくよく見ると、最初に登録したカード会社ではなくて初日に2枚目のカードとして追加しておいた楽天VISAで決済されていた。初日はこのカードも蹴られていたのだが、楽天VISAが気を利かせて認証を緩めてくれたのか???

ただし注意事項がひとつ。UberもLyftも配車時刻のランデブーには当然スマホがネットに常時接続されていなくてはならない。自分は今回iPhoneの海外データローミングをoffにしてモバイルルーターでネット接続して行動していたのだが、そのままの状態で写真などをクラウドに保管しようとするとデータを無駄に消費してしまうのでホテルではホテルのWiFiに接続していた。モバイルルーターoffの状態でホテルの部屋からホテルのロビーに移動しているうちにたまにこのWiFiが切れることがある。UberやLyftからくる通知を重要なタイミングで見落としてしまうとランデブーに失敗してしまうかもしれない。

自分が逆にドライバーの立場だったとしたら「+81」の客を敬遠したい気分になるのがわかる気がした。

結局、最初に登録したカードがLyftやUberで認証されない理由はまだわからない。聞くところによると3DSecureなどの高度な認証はヨーロッパではかなり普及しているが、この仕組みを作り上げたアメリカ国内では利用するショップがまだ少なくてあまり使われていない状態らしい。あとでまたカード会社に電話して詳細を調べてもらおうと思っているのだが、電話口で何分も待たされるのでなかなか気が乗らない。たぶんそれがカード会社の戦略なのね。

アメリカから長い国際電話をかける時にはSkypeの月額プランがじつにお得で便利だった。Uberは「+81」で登録してあったので結局「+1」の電話番号が役に立つことはなかったけれど、このカード会社への電話だけでもとをとった気がする。さらにいうと、このSkypeアカウントはしばらく放置してあったので、以前購入したSkypeクレジットはとっくに期限切れになっているものだと思っていたけれど、ログインしてチェックしてみるとまだ残っていた。なので今回は実質無料という気分。まじかMicrosoft。君もたまには功徳を積むことがあるんだね←

今回は夕食会の会場にかけつけるというミッションなので時間に余裕があってよかったが、これが例えば帰国前にレンタカーを返してしまってホテルから空港までLyftやUberの配車予約を済ませてこれで安心、と思っているところへ今回のようなトラブルに見舞われると完全に詰むな、と思った。配車予約は受け付けてくれるのにいざ配車のタイミングになってカードの認証をしてみたら蹴られてしまう、という順番はどこかまちがってるぞ、LyftもUberも。みなさんもご注意あれ。

店まで運んでくれた車のドライバーは金髪で長身のかっこいいお姐さんだった。店の前で車を降りる時にたまたま知人たちに目撃されてしまい、「あーこいつがずっとひとりだけTitusvilleに泊まっているのはそーゆーことだったのね!」という顔をされた。おい! そーゆーことじゃないんだってば!!!!

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2023/09/11

Titusville vs Cocoa Beach

KSCVCは15年前に訪れた時と比べると展示内容が一新されていて他にもまだ面白そうな展示があったけれど、翌々日の深夜の打ち上げに向けて体力を温存するために早めにBest Westernに戻って一眠りすることにした。途中、CVS Pharmacyに立ち寄ってDEETの入った虫除けスプレーを入手する、というミッションを無事にこなしつつ。

手指消毒用のエタノールを感染症予防のために小分けのスプレーボトルに入れて持ってきていたのだけれど、往路の旅路で予想以上に消費したので補充用のエタノールも買った。といっても旅行者用のコンパクトな瓶などは売っていなかったので家庭用のバカでかいボトルを買った。

 Ethylと書いてあるけれど、臭いを嗅ぐと独特だった。酒がわりに飲んだりしないようにイソプロパノールやなにか他の溶剤もいっしょに入れてある。自分の滞在中には使いきれないので、NASAのパスを代理で受け取ってくれたアメリカ在住の知人にあとであげることにした。

Titusvilleの交通の要であるI-95にほど近いBest Western Space Shuttle Innに泊まるのは今回で4回目。われながらよく飽きないもんだと感心する。36年前のフロリダ旅行の時に立ち寄ったのが最初だけれど、その時はまだそこそこ新しかった。2005年の野口さんの打上げの時もここだったし、星出くんの時はどうだっけと当時の資料を探してみたら、やっぱりここだった。今回の宿探しではExpediaにアカウントを作って幅広くいろんなホテルを検討したのだけれど、結局、空港からもKSCVCからも近くて土地勘のあるここに泊まることにした。ただし今回は全6泊の滞在を3つのホテルに分けて。

今回現地に集合した知人たちはみなケープカナベラルの南側の海岸線、Cocoa Beachのホテルに泊まっていた。正確に言えば事前の情報交換ではTitusville派とCocoa Beach派に分かれていたのだが、打上げの日程がどんどん後ろにずれていくうちに、仕事を休む日程調整ができなくなって脱落していった知人たちが4人ほどいた。その人たちはせっかく予約した航空券を無駄にしないためにKSCを見学に来て、運良くFalcon9のStarlinkの打上げを見ることができたようだ。

知人たちは星出くんやなおこさんの打上げの時にJAXAが指定した集合場所がCocoa Beachだったのでその時に宿泊して気に入ったらしい。海岸なので散策したり朝のジョギングをする知人もいたりして、観光地として賑わっているCocoa Beachが安心感があるらしい。マーキュリー・ジェミニ・アポロの宇宙飛行士たちもこのビーチに滞在したりバーに立ち寄ったりという歴史もある。ただし今回はJAXAからの関与が少なく、NASAからの直接の連絡にしたがってKSCVCの駐車場に各自集まることになっていたので、Titusvilleからの方が近い。

ただBest Westernのような安モーテルは、よほどアメリカでの生活に慣れた人にしかおすすめできない。ハリウッドのロードムービーに出てくるようなカジュアルさというかとにかく最低限の要素しかない。冷蔵庫と電子レンジがあるのは助かるけれど、みんな土足で歩くので床がじゃりじゃりする。今回はエールフランスでもらった室内ばきスリッパを使い捨て用に持ち込んだ。

今回ひとりだけTitusvilleに泊まることにしたことについて知人たちから問い詰められて、「空港から近いしホテルも安いから」と答えた。そう、ExpediaでみてもCocoa Beachのホテルはワンランク高い。それでもCrew7が無事に打上げられた夜だけCocoa Beachに泊まって打上げの打上げ会をみんなで盛り上がろうと考えていた。

ところが日程が迫ってきてからの度重なる変更で、狙っていたホテルが満室になってしまった。仕方がないので打上げ当日はTitusvilleに最近できたというNASAやJAXA関係者いち押しらしい別のホテルを予約した。というわけで結局、ひとりだけTitusvilleに泊まることになった。

前回も星出くんの打上げのあとの打上げ会をCocoa Beachでやったので、土地勘がないわけではないのだけれど、観光地っぽい雰囲気がなんだか落ち着かない。例えていえば湘南海岸におのぼりさんがひとり紛れ込んできたみたいな… 今でこそ#青ブタシリーズの聖地をストリートビューで片っ端から特定していったので目隠ししたまま七里ヶ浜や藤沢駅に降り立ってもどっちにどう歩けばなにがどこにあるのかの土地勘はあるのだけれど…

閑話休題。

自分がなぜTitusvilleのほうが好きなのかを打上げ後も考えていて「真ん中からやや上の中産階級が暮らしている適度に田舎な街の生活感」が自分をホッとさせることに気がついた。 以前住んでいた中西部の田舎町と生活のリズムが似ているのだ。通りを走る車のグレードやスーパーマーケットに来る客層を見れば、その土地の文化や治安がなんとなくわかる。たぶんKSCに勤める関係者の給料がこの町の経済を支えている。

そう考えると、NASAが米国社会にもたらす経済効果の一面が少し見えてくる気がする。 

Eaglesの曲のひとつにLast Resortというのがあって、その雰囲気が大好きなのだけれど、歌詞をみるとアメリカの西部開拓史の縮図のように見える。

Where the old world shadows hang - ヨーロッパの重い空気が残る東海岸のロードアイランドをあとにして、ロッキー山脈、the Great Divideに集まってくる人々、そしてさらに理想の地を目指して西海岸で太平洋に沈む夕陽を見る。Malibuという地名が今乗っているレンタカーと同じなのは偶然か。シカゴを出発してカリフォルニアのサンタモニカまで走る「ルート66」はアメリカ人にとってある種の理想の未来を追い求めるような旅であるらしい。

非常にざっくりいえばこのアメリカを北東部から南西部に結ぶ道がアメリカの発展を支えた主要な地域で、右下と左上はその発展からすこし取り残されてきた。マンハッタン計画やNASAの主要な研究所がその取り残された地域に作られたのはそれなりの必然性があったのではないかと感じさせる。

そんな中で旧ソ連との宇宙開発競争が始まり、ケープケネディは一躍、アメリカの希望を支える最前線となった。ウォルト・ディズニーもNASAのフォン・ブラウンの計画が大好きで広報活動をずいぶんと後押ししているし、ディズニーワールドをオーランドに建設したのも、フロリダを一種の未来都市にしたかったからではないかとも思える。

今、アメリカの宇宙開発は SpaceX ほぼ一色といってもいいくらいの新時代を迎えつつある。Titusvilleの未来がこれからどうなるかはわからないけれど、少なくとも今は自分をホッとさせる街だ。マーキュリーやジェミニ・アポロの時代を知る人々がボランティアとして働く小さな博物館もあるし、セスナの免許が取れそうな小さな飛行場もあるし、もし自分が老後をアメリカで暮らすことになったらTitusvilleは悪くない選択肢だな、と思う。

EaglesのLast Resortは最後、こんな歌詞で終わる。

And you can see them there on Sunday morning
Stand up and sing about what it's like up there
They call it paradise, I don't know why
You call someplace paradise, kiss it goodbye

"up there"は「天国」とも解釈できるが、自分は1976年当時、宇宙ステーションのことだと解釈した。今ならさしずめイーロン・マスクが目指す火星、だろうか。アメリカ人の「業」を感じさせるような歌だ。

Live long and prosper.

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2023/09/10

KSCVCふたたび

 Apollo/Saturn V Centerの見学を終えて、ふたたびKSCVCまで戻ってきた。前の記事で書いたとおり、途中の道端の松の木にある白頭鷲の巣をやっとこの時目視することができた。

バスターミナルに戻ってくると、バスツアー出発前に「並んで並んで」と言われて撮られた記念写真を買わないか?という観光地あるあるのセールス。話を聞いてみるとここで代金を払っておくとKSCVCのいろんな場所で写真を撮ってもらえてクラウドにアップロードされて、QRコードをグループでシェアすれば、そのコードを見せるだけで誰でも写真を追加できるらしい。面白そうなので知人と割り勘で支払ってみた。


 クロマキーも不要で自動で顔認識して宇宙服を着ている自分の写真を合成したりもしてくれる。写真は即座にクラウドでシェア。21世紀感あるねぇ。ちょっとお高いけれど米国旅行の思い出をリアルタイムで知人たちとLINEグループで交換し合って盛り上がるのも悪くない。待ち行列のあいまにサクッと撮ってくれるので手際もいい。


代金を支払うとこういうカードをくれるので、次の撮影ポイントではこのQRコードをみせるだけ。知人たちとLINEグループでシェアした。storibox.comという会社が作った技術らしいけど会社概要のページが見つからないのでこういう記事を代わりにご紹介。

ところでこの記事を書くためにKSCVCの各施設を確認しようとしていて気がついたのだが、これから訪れようと考えている人はKSC Guideというアプリを事前にインストールしておくのがよいようだ。こういう民営化はよい民営化。

KSCVC見学は今回で3回目になるので新しい展示だけ見ておこうと思ってまずはSpace Shuttle Atlantis棟を見に行った。

 
 スペースシャトルの実機は10年前にスミソニアンでディスカバリー号を見たので特別な感慨は今回なかったが、やはり「よくこんな巨大で危険で複雑なしろものをアメリカは宇宙へ送り続けたよなぁ」と心底驚いてしまう。とくにFalcon9やCrew Dragonのしれっと宇宙へ行って戻ってくるさまを見せつけられてしまうとなおさらだ。宇宙へ行きたかったのは危険でかっこいいこいつに乗りたかったからだ。自分もシャトルも歳老いたな。

15年前にここに来た時には真新しくて大人気だったShuttle Launch Experienceもこの日はすぐに乗れた。本物に乗った宇宙飛行士たちも「この経験は限りなく本物に近い」と太鼓判を押す施設。出口には体験した宇宙飛行士たちの署名が飾られている。行列の短さが時代の変遷をまたしても実感させる。



次に訪れたのはGateway: The Deep Space Launch Complexという施設。ここにはFalcon9やSLS、Dream Chaser、CST-100 Starlinerなどが展示されている。これからの若い世代が見るべきNASAはここやね。天井にはデーンとFalcon9の一段目がぶら下がっている。

この機体はInstagramのこの人によればFalcon9 B1023らしい。2016年にFalcon9一段目としてThaicom8を打上げ、2018年にFalcon Heavy Test Flightのブースターとして回収された実機。デカいんだけどデザインがすっきりしているのでデカさを感じさせない、これもスケール感覚をバグらせる系のしろもの。

2012年5月のCOT-2ミッションで使用されたCargo Dragon C102も展示されていた。

この建物は現在進行中あるいはこれから打上げられるミッションのモックアップ展示なので、実機以外はやや印象が弱い感じがした。

次にIMAX Theaterで映画を見ようかと向かったけれど、この日の上映はもう終わっていた。早っ。36年前に初めてKSCVCを訪れた際はチャレンジャー事故の調査でシャトルは飛行停止になっていたけれど、The Dream Is Aliveという映画をみて、アメリカ人の国民性に感動したものだっけ。日本だとこういう感覚にはならないだろうなぁと思いつつ。

 MCO着陸からここまで20時間。そろそろ眠くなってきた。Crew7の打ち上げは深夜なのでこのまま時差ボケをなおさずに日本時間のままでいようと思って、知人たちとは夕食会でまたあう約束をして一人KSCVCをあとにBest Westernに戻ることにした。


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オーランド空港(MCO) を飛び立った飛行機は南向きに離陸して左に旋回するとワシントン・ダレス空港(IAD)に向かった。 窓際の席に座れた時には離着陸の動画を撮ったり上空からなにか面白そうな建物や地形を見つけると写真に撮ったりする癖があるので今回も撮りはじめた。日本だったらあまり...